新型コロナ どうする医療危機・検査強化
小池晃党対策本部長に聞く
2020年4月11日【3面】
拡大する新型コロナウイルス感染症から国民・住民の命と健康を守るために、危機的状況に陥っている医療体制と検査をどう強化するべきか。医師でもある日本共産党の小池晃書記局長・新型コロナウイルス感染症対策本部長に聞きました。
感染拡大防げぬ「補償なき宣言」 予算大幅拡充・医療機関支援を
―感染者数が急増し、医療体制が逼迫(ひっぱく)しています。現在の状況をどうみていますか。
緊急事態宣言が出され、国民の間でも不安が広がっています。日本共産党としては、「宣言」に伴う自粛や営業の中止などについては補償がいよいよ必要であり、「補償なき宣言」では感染拡大防止はできないと、引き続き強く求めていきます。
政府からはさまざまな支援策も出されてきてはいますが、あまりにも規模が小さい。戦後最大の危機ともいわれるような感染症の拡大に対応できるものになっていません。
さらに、緊急に求められているのが、医療体制の強化です。
感染者数が最も多いのが東京都です。10日に都内で新たに確認された感染者が189人。新型コロナで入院中の方は1431人です(重症は30人)。小池百合子都知事は今週中に1700床を確保するとしていますが、ぎりぎりの状態です。
新型コロナの場合、8割は無症状か、軽症で治るといわれていますが、急速に悪化することもあり、そうした治療に力を集中できるように、絶対に「医療崩壊」を起こさないことが求められます。
この間、日本共産党としても医療体制の強化を求めてきました。
まず病床(ベッド)の確保です。感染者を受け入れるために、ベッドを空けておくための政府の補助金は1日1万6190円です。しかし急性期病院のベッドで治療すると1日5万~6万円の収入がありますから、損失補てんのためには抜本的な引き上げが必要です。
また、病院には体力の低下した患者さんが多数入院していますから、コロナ患者の入院を受け入れると、どうしても院内感染が起こりやすく、そうなると通常の診療体制まで崩壊する危険があります。
症状に応じた医療を提供するために、病院の機能を分けることも必要になります。最重症の集中治療を行う病院、そこまで重くはないが入院が必要な中等症患者などを受け入れる病院を設定し、それ以外の病院はコロナ以外の医療に専念するようにしないと、共倒れになりかねません。日本医師会も同様の提案をしています。
いま一つは、コロナ対応の外来診療強化です。いまは全国1136カ所の「帰国者・接触者外来」に患者を集中する形をとっていますが、それ以外にも、意思と能力のある医療機関に、通常の患者とは別のスペースに「発熱外来」を設けてもらい、発熱した患者さんにはそちらを受診してもらう。そのためのスタッフ配置や、マスクやフェイスシールドなど、医療従事者の感染防護の器材を国が緊急に支援すべきです。日本医師会は、自治体などが公的な相談外来を設置することも提案しています。
病院のベッドを空けるために、PCR検査が陽性であっても無症状・軽症の方はホテルなど宿泊施設に移すことを始めています。中等症以上の病床を確保するためには必要な措置ですが、急速に悪化することがあるので、万全の対応が必要です。自宅療養の場合はいっそうの支援が必要です。
病床の確保などには財政支援が欠かせません。ただでさえ院内感染への不安から、どこの医療機関でも受診患者が激減し、深刻な経営危機に直面しています。ところが、補正予算案では「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金」にひとまとめにして1490億円。これで、病床の確保も、検査機器や人工呼吸器の整備などもまかなえというのです。マスク提供や治療薬の開発費用などを含めても8000億円です。
米トランプ政権は2兆ドル(約220兆円)のコロナ対策緊急予算を成立させましたが、そのうち1千億ドル(約11兆円)が病院など医療機関への緊急補助、160億ドル(約1・76兆円)が医療機器への補助です。日本でも、予算の大幅な拡充が必要です。
無症状の感染者や軽症者を在宅でみる場合に、地域の開業医らのネットワークをどうつくるのか、ホームヘルパーの訪問の際の感染防護はどうするのか。自宅療養時の健康管理や、介護従事者に対する指針や支援策を示すなど、在宅にも目配りした対策も急がれます。
開業医をはじめ日本の医療従事者は、医療水準も使命感もきわめて高いものがあります。必要なのは十分な財政支援です。
必要な人に、速やかに、安全にPCR検査実施体制を強めて
―感染を調べるPCR検査がなかなか進まない問題についてはどうでしょうか。
2~3月で、新型コロナ問題に対応する「帰国者・接触者相談センター」への相談件数は31万3475件。そのうち「帰国者・接触者外来」受診患者数は1万6730人、5・3%です。さらに実際にPCR検査を実施した件数は1万2595件で、わずか4%しか検査にたどり着いていません。東京では2・3%です。症状があっても、医師が必要と判断しても、なかなか検査を受けられないのが実態です。
なぜこうなっているのか。最大の問題は、PCR検査が原則として「帰国者・接触者外来」でしか受けられず、そこを受診するためには、基本的には保健所などに置かれている「相談センター」での確認が必要だからです。ここが事実上の「バリアー」になってしまっています。
感染拡大が始まった当初は、検査能力も小さかったため、明らかに検査を抑制していました。しかし、検査に医療保険も適用し、検査能力が1日1万件を超えた今でも、二重三重のチェックで抑制するやり方が基本的に改まっていないのです。
背景には、これは専門家会議も指摘していることですが、帰国者・接触者相談センターが設けられた保健所が疲弊していることもあります。保健所の仕事は、コロナ対策だけではありません。結核や食中毒などにも対応しなければなりませんが、この間、保健所の体制は大幅に削減されてきた。そこに朝から晩まで電話がかかってきて、現場は追いつめられています。
また、PCR検査自体の問題もあります。検査では、鼻から綿棒を奥まで入れて咽頭(いんとう)拭い液をこすり取るので、くしゃみやせきで飛沫(ひまつ)が飛び散ります。医療従事者は、マスク、ゴーグル、防護服などで感染を防がなくてはならないし、終了後は部屋の消毒も必要ですから、医療機関としても、実施できる件数には限りがあります。
ただ外国では、桁違いに多くやっている。ドイツや韓国などでは車に乗ったまま検査が受けられるドライブスルー方式で、医療従事者の感染をできるだけ防ぐ工夫がされています。厚労省もようやく「PCR検査を拡充する」「ドライブスルー方式を検討する」と言い出しましたが、あまりに遅い。緊急に具体化し、実行すべきです。
先ほど述べたように、検体採取にはリスクもありますから、「まったく症状がないけど心配だから」という方にまで広げるべきではないと思います。陽性の人が「陰性」に判定されることもあるので、過信も禁物です。それでも、「検査が必要だ」と医師が判断した場合には、誰でも直ちに受けられるようにするべきです。
安倍晋三首相は検査実施可能数を1日2万件に倍増させるといいますが、問題は検査の「能力」ではありません。今も1万件以上の検査「能力」があるのに、3千から5千件しか実施できていない、実施件数が「能力」に追いついていないことです。検査数が少なすぎれば、どこで感染が起きているかが把握できなくなり、大変危険です。
ノーベル賞を受賞した山中伸弥氏も、「自分の感染に気付かないと他の人への二次感染のリスクが高まります。必要な人に、速やかに、かつ安全にPCR検査を実施する体制の強化が必要です」と提言しています。
政府は検査を抑えるのではなく、積極的に実施する方向に、明確にかじを切るべきです。
また、血液で調べる抗体検査も早急に導入すべきです。最近使われ始めた検査キットは、指の先から血液を一滴たらせば15分程度で判定できる、簡便で、他への感染リスクも少ないものです。感染の既往を判定するには一定の信頼性があると言われています。たとえば、地域でどれだけ感染が広がっているのかを調べる、疫学的な調査の手段としては、有効だと思います。
ワクチン開発に低すぎる予算 国家事業としての規模が必要
―ワクチン開発の問題はどうでしょうか。
感染を収束させるためには、ワクチンの役割が決定的になります。しかし、政府の補正予算案ではワクチン開発支援に100億円、国際的な研究開発に216億円などとなっていますが、これも規模が小さすぎます。
アメリカでは、2月に新型コロナのワクチン研究・開発費に3300億円の予算を成立させました。ここでも桁違いです。
ワクチンは、せっかく開発しても収束すると収益にならないことなどから、日本の大手メーカーは開発に消極的です。諸外国のように国家的事業として、開発に財政を投じなければなりません。
国民の命脅かした保健所削減 真剣に反省し抜本的転換図れ
―政府の進めてきた医療政策全体についてはどうお考えですか。
今回の政府の「緊急経済対策」には、これまでの政策に何の反省もなく「保健所の体制強化に迅速に取り組む」と書きこまれています。大阪で保健所減らしを進めた橋下徹元大阪市長も「お手数をおかけしますが、見直しをよろしくお願いします」などと言っていますが、無責任すぎる。
1990年に850カ所あった保健所を2019年には472カ所にまで統合し、職員も減らしてきた責任をどう考えているのか。保健所の統廃合・削減路線がいかに国民の命を脅かしてきたか。真剣に反省して、抜本的に転換してもらいたい。
病院の統廃合も大問題です。政府は昨年9月、424の公立・公的病院を名指しで再編統合を迫りました。政府の「地域医療構想」は、25年度までに全国の急性期病床を約20万床、3割も減らす政策です。3月27日の参院予算委員会で田村智子政策委員長が、せめてコロナが収束するまでは病床削減計画は停止すべきだと迫ったら、加藤勝信厚労相は「並行して将来に向けた対策も考えるのは当然だ」と拒否しました。
コロナのまん延に備えてベッド確保を求めながら、返す刀で、ベッド削減を「並行して進める」。言語道断です。
政府はこれまで公的医療機関を統廃合し、診療報酬の削減で、常にベッドがいっぱいでなければ病院の経営が成り立たないような、ぎりぎりの努力を現場に強いてきました。そういう政治の矛盾が、危機への脆弱(ぜいじゃく)性として、いま浮き彫りになっています。
今回の危機は、いままでの日本の政治行政の在り方を根本から問い直すことを求めている。コロナの前と後とで日本の政治は大きく変わったといえるようなたたかいにまで発展させていかなければならないと思っています。
(しんぶん赤旗 4/11より)